採択課題

遺伝子改変歯髄幹細胞を用いた標的α線療法の開発

研究開発代表者

野村 幸世

東京大学

胃がん腹膜播種は5年生存率が10%以下と極めて予後不良であることから、新たな治療法の開発が求められている。腹膜播種病変は腹膜表面に露出しているため、腹腔内に投与された放射性医薬品の治療ターゲットとして適している。とりわけ、飛程が100μmと短く、標的細胞に効率的にエネルギーを与えるα粒子を放出し、半減期が10日以下のα線放出核種を特異的にデリバリーする手法を開発することによって治療が可能と考えられる。本研究で用いる短寿命α線放出核種アスタチン-211(At-211)は、近年国内での製造・供給体制が整いつつあり、その半減期は7.2時間で6.0〜7.5MeVのα線を放出し、高い細胞殺傷効果を持つことが特徴である。

がん細胞には周辺に線維芽細胞 (Cancer Associated Fibroblast (CAF))が存在するが、間葉系幹細胞にもがん細胞周囲に集積する特性があることが知られている。私たちは、正常免疫マウスを用いたヒトへの外挿性の高い腹膜播種モデルの樹立に成功し1、そのマウスモデルにアロジェニックグラフトが可能な、間葉系幹細胞の一種である歯髄由来間葉系幹細胞(dental pulp cells, DPC)を腹腔内に投与すると、がん腹膜播種巣周辺に集まることを発見した。このDPC細胞については、既に静脈内投与による臨床試験においてヒトでの安全性が担保されており、原料採取時の侵襲がなく、国内で供給体制が構築されていることから、本治療法の開発に有用であると考えた。そこで、DPC細胞にヨードトランスポーター(Na/Iodide symporter, NIS)遺伝子を組み込んだNIS-DPC細胞を、腹膜播種マウスモデルの腹腔に投与したところ、腹膜播種巣に48時間後までには充分集積していること、この時点で腹腔内投与されたAt-211が、がん細胞周辺に集積したNIS-DPCに迅速に取り込まれる事で、がん細胞を効果的に死滅させることが見出され、生存期間延長に関しても有意な結果を得て報告した2。本薬剤のメカニズムを示す(図1)。

本研究の最終目標は、NIS-DPC細胞を腹腔内投与して、胃がん腹膜播種病変に集積させ、At-211を取り込ませることでNIS-DPC細胞が周囲に集積しているがん細胞を死滅させる、核医学と再生医療の技術を融合した、国内外で初となる治療製品の実用化である。

スマートバイオ事業終了後のFirst in Human(FIH)試験の開始を目指し、当研究では、At-211とNIS-DPC細胞を対象とした非臨床試験データの収集、および治療効果の概念実証(POC)を得る非臨床パッケージの収集と、臨床ステージアップを目指す治験開始に必要な治験薬供給に向けた体制の確立を目的とする。

第一の課題として、NIS-DPC細胞の安全性の検証。第二の課題として、薬効について追加データの取得。第三の課題として、医師指導治験で使用されているNa211At体を用いた治療・安全性データの取得。第四の課題として、治験薬供給に向けた体制確立を設定する。既存データに、本研究開発で信頼性基準あるいはGLP下で取得したデータを加えることで、本事業の最終年度末には治療法開発を非臨床試験フェーズ(医師主導治験開始に必要となる非臨床試験の実施と完了)から臨床ステージへと移行することを目的とする。

本研究では、管理区域内においてAt-211製剤の調製を行うが、将来的に、α線放出核種を用いた治療に関する法規制や運用体制が整備され、外来での投与が可能となった場合には、従来の放射性医薬品投与時に必要とされる隔離施設を用いずに治療を実施できる可能性がある。上市後は、加速器施設で製造・精製したAt-211を、RIを取り扱うことのできる医療機関へ速やかに供給し、あらかじめNIS-DPCを腹腔内投与した患者にAt-211を投与した後、経過観察を経て帰宅する治療プロセスを想定している。本研究開発の結果、図2に示すような想定治療プロセスを通じて、胃がん腹膜播種患者に治療の選択肢を増やし、生命予後とQOLの改善に貢献することを目指す。

References

1) Yamamoto M, Nomura S. et al, Cancer Sci., 2018, 5, 109.
2.) Kuge K, Tatsumi T, Yoshino M, Sugiyama A, Haba H, Wada Y, Imagawa K, Nomura S. et al bioRxiv Preprint, 2025, 2025.10.15.682497. DOI: 10.1101/2025.10.15.682497.

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