採択課題

抗体の多価効果を制御する基盤技術の開発

研究開発代表者

秋葉 宏樹

京都大学

抗体医薬品は中核的医薬品モダリティの一つとしての位置づけを確固たるものとしてきました。絶え間ない技術革新がその発展の源泉となっています。近年も二重特異性抗体や抗体薬物複合体等の構造改変によって、従来の抗体にはない機能が付与されることで、有効性の高い多数の抗体医薬品が生み出されてきました。代表者の秋葉は、二重特異性抗体の1種であるバイパラトピック抗体(標的抗原の2つの異なるエピトープに結合する改変抗体)を利用することで新機能が創出されることを示してきました。この研究を通じて、抗体が示す多価結合という特性を制御することの重要性を理解してきました。

抗体分子は、二つ以上の可変領域(標的分子に結合する領域)をもつことがその特徴です。これら複数の領域が協同的に標的分子に結合する作用を、多価結合と呼びます。多価結合は抗体の結合能を飛躍的に高めるだけでなく、細胞膜受容体のクラスター形成などを通じて、生物学的現象の誘導にも寄与します。多価結合は、天然の生体防御における抗体機能の発現に極めて重要な役割を果たしています。その一方で抗体医薬品の機能には、多様な疾患標的に対する多様なメカニズムが求められます。そのため、必ずしも天然抗体の示す多価結合がすべての標的に対して、有効性の最大化に有用であるとは限りません。これまでの研究ではバイパラトピック抗体を通じて細胞膜受容体のクラスター形成を制御し、多彩な機能を誘導できることを示してきましたが、この技術のみでは多価結合を制御する仕組みが十分ではありませんでした。

そこで本研究で我々は、抗体工学と有機化学を効果的に組み合わせることで、抗体の示す多価結合能のうち、望みの性質のみを取り出す技術を開発します。抗体の配列改変と新たに開発する合成ユニットを利用した化学修飾の両面からの抗体最適化を実施すべく、組換え抗体の生産、有機合成、コンジュゲーションとその分析に至るまで、ものづくりをベースとした研究を進めています。生物活性や薬物動態などの複数の側面から、多価結合最適化に資する制御技術を開発することで、疾患標的に対する抗体医薬品候補物質の有効性の最大化を目指します。将来的に抗体医薬品創製の基盤技術の一つとなることが期待されます。

(左)組換え抗体の最適化のための少量生産。(右)有機合成ユニットの取得分析。

(左)組換え抗体の最適化のための少量生産。 (右)有機合成ユニットの取得分析。

研究を主導するグループ写真(2024年3月撮影)。

研究を主導するグループ写真(2024年3月撮影)。