採択課題

人工知能駆動型科学に基づいた固形腫瘍CAR-T 細胞療法の実用化

研究開発代表者

渡邊 慶介

国立がん研究センター

キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞 (CAR-T細胞)療法は、患者さんもしくは第三者から採取した免疫細胞の一種であるT細胞を遺伝子改変することで腫瘍を攻撃する能力を与えた後、患者さんに再び投与する治療法です(図1)。急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などB細胞由来血液腫瘍に対し大きな有効性が示され(図1)、本邦では5つのCAR-T細胞製剤が上市されています。この高い効果を他の癌に応用しようと世界中の研究機関、製薬企業が開発を進めていますが、残念ながら固形腫瘍に明らかな有効性を示し承認にいたったCAR-T細胞製剤は未だなく、私たちの研究班では、脳腫瘍、膵臓癌、乳癌など難治性固形腫瘍に治癒をもたらし得るCAR-T細胞療法の開発と実用化を目指しています。

固形腫瘍に対する免疫細胞療法開発の困難さは、癌のもつ特有の免疫学的、物理的、代謝学的な障壁によるところが大いと考えられています。このような腫瘍環境は抗腫瘍免疫応答に重要な役割を果たすT細胞の浸潤や正常な細胞機能、長期作用を阻害し、CAR-T細胞療法の有効性が制限されると考えられます。これを打破するため、私たちは、腫瘍細胞自身が腫瘍微小環境内で生存するため有効に利用している機構 (生存機構)に注目し、同機構をT細胞の賦活化に応用することで活性化と長期作用を同時に可能にする独自のCAR-T細胞賦活化プラットフォームの開発に成功しました (図2)

本研究課題では、本CAR-T細胞賦活化プラットフォームと、分担研究機関であるMOLCURE社が培ってきた世界最大級の独自データベースとアルゴリズムを基盤とする人工知能駆動型科学に基づいた分子設計技術を融合することで、これまでにない高機能CAR-T細胞を、高スループット、低コストで設計、開発し実用化することを目指しています (図2)。開発されたCAR構造をもとに、国立がん研究センター先端医療科との協力にて治験実施計画の策定や治験にむけた治験製品の製造準備、非臨床試験を実施します。

これまでの研究開発で、AI設計により膵臓癌等を標的とする複数のCAR構造を獲得し現在その評価を行っています。このなかから最も有効なCARを選別し、国立が研究センターでの治験実施を計画しています。また、本研究課題では、国立がん研究センター発ベンチャー企業であるARC Therapies株式会社とのパートナーシップのもと薬事承認と事業化へ向けた開発をすすめており、有効なCAR-T細胞の研究開発とともに、本邦での再生細胞医療ベンチャー創薬成功の先駆けとなることを目指しています。

図1. キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)の概略

図1. キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)の概略
CAR-T細胞療法は患者さんもしくは第三者より採取したT細胞を腫瘍を攻撃するように遺伝子改変し、再び患者へ戻す治療法 (左)。急性リンパ性白血病など血液腫瘍に対し高い効果が確認されている(右)。

図2. 本研究課題の概略
国立がん研究センターにて開発されて腫瘍細胞の腫瘍環境内生存因子を応用した生存強化CAR-T細胞 (CART-Fx)(左)とMOLCURE社が培ってきた世界最大級の独自データベースとアルゴリズムを基盤とする人工知能駆動型科学に基づいた分子設計技術を融合することで、これまでにない高機能CAR-T細胞を開発し実用化する

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