京都府立医科大学
多くの遺伝性疾患は予後が極めて不良であり、ゲノム解析による責任遺伝子の同定から診断確定、さらに治療実施までの猶予期間は数年に限られています。また、治療法が存在しない疾患も多く、疾患変異に応じたゲノムやRNAの改変による個別化医療の開発が求められています。しかし、臨床応用を目指した研究開発はまだ黎明期にあり、さらなる研究の促進が期待されています。
2012年にCRISPR/Cas9システムが発表されて以来、ゲノム編集技術は急速に進化し、生細胞における疾患遺伝子の修正や改変が現実のものとなりました。しかし、ゲノム編集を用いた医療を実現するためには、安全性の確保、知的財産権に関する実施許諾費用といった経済的課題、標的臓器へのデリバリー技術の革新など、さまざまな課題の解決が必要です。
臨床ステージ展開のために解決しようとする問題と解決方針
本グループでは、先天性免疫異常症をはじめとする難治性遺伝性疾患に対するin vivoゲノム編集治療の臨床応用を目指した研究開発を進めています。先天性免疫異常症を対象疾患に選定した理由として、造血幹細胞の一部が遺伝子修正されるだけでも、末梢で正常機能を持つ免疫細胞が増殖し、個体としての症状改善が期待できる点が挙げられます。本グループは、必要な要素技術を専門とする研究者が所属する7つのサブグループで構成され、以下の技術開発を進めています。
1)独自のゲノム編集法の確立
2)国外で確立された知的財産権を回避するためのゲノム編集ツールの改良
3)in vivoにおける標的臓器へのゲノム編集ツールの効率的なデリバリー技術の開発
4)特定疾患に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)技術の確立
5)動物モデルを用いた検証
6)患者由来細胞を用いた検証
7)ゲノム編集に伴う目的外変異の頻度の検証
このように、多岐にわたる技術開発を統合し、実用化を目指しています。
研究体制
ゲノム編集を含む核酸改変技術は比較的新しい技術であり、予期せぬ困難が生じる可能性もあります。しかし、疾患の原因である遺伝子変異を野生型に修正する技術は、多くの遺伝性疾患に対する根本治療につながる可能性を秘めています。我々の研究開発が、ゲノム編集医療の成功例の一つとなり、その発展や難治性疾患の新規治療法の確立につながることを期待し、今後も研究を進めてまいります。
用いる独自編集法の1つNICER法