採択課題

デュオカルマイシンを用いた抗体ミメティクス結合薬

研究開発代表者

金井 求

東京大学

採択課題の概要

本研究は、再発・転移を伴う進行がんに対し、少ない副作用で根治を目指す抗体ミメティクス結合薬(Antibody Mimetics Drug Conjugate:以下、AMDCと略す)の複合製剤の第一例として、マウスで根治のPOCを示したデュオカルマイシン結合・抗HER2抗体ミメティクス複合製剤1の臨床ステージアップつまりヒトでの臨床試験入りを目指して開発を行うものである。 我が国のがん罹患者は年に約100万人となり、そのうち38万人が再発・転移を伴う治療抵抗性の進行がんのため毎年亡くなっている。従来の抗がん剤が効かなくなった進行がんの治療においては、がん細胞の膜表面の標的タンパク質に対する抗体に抗がん剤をリンカーを介して結合させた抗体結合薬(Antibody Drug Conjugate:以下ADCと略す)が、治療薬の中心の一つとされている。治療抵抗性の進行がんには、より安定的な抗体に、より多数の抗がん剤を結合した第二世代のADC製剤が開発され、それらが第一選択となりつつある。しかし、反復投与を繰り返すうちに、正常組織の暴露量が増え、従来の副作用に加え、肺線維症や左心不全などの副作用が増加し、ADC failureという治療継続困難な状態になり治療法がなくなる場合が多数ある。 AMDCは、自然界最強と言われるストレプトアビジンとビオチンの高い親和性を用いることで我々の研究チームが開発した、人体内での使用を目指したタンパク質製剤Cupidと低分子化合物Psycheを用いた複合治療製剤2である(図1)。がん細胞の表面にターゲットへ薬を送達する抗体ミメティクスとCupidを融合したタンパク質パートと、有機合成により作られる抗がん剤をPsycheと結合した低分子パートを混ぜるだけで調製でき、さまざまな標的にさまざまなペイロードを運ぶ複合体製剤として用いることができる。すでにアイソトープ3、光活性化物質4, 5による光免疫などの用途でPOCを得ている。
図1:AMDCの概念図(抗HER2-CupidとDuo-Psycheをモデルとして表示)

図1:AMDCの概念図(抗HER2-CupidとDuo-Psycheをモデルとして表示)

本研究では、固形進行がんの標的として重要なHER2を標的とする人工抗体VHHを用いて、極めて少数の分子でがん細胞を殺傷するデュオカルマイシン(Duo)を結合させたAMDC製剤(以下、Duo-HER2と略す)の治験の届出を目指す開発を進める(図1)。Duo-HER2は、ヒト乳がん細胞のゼノグラフトマウスで病理学的完全寛解を、重篤な副作用なしに達成したPOCのある複合製剤である。Duo-HER2は複数パートから構成される複合製剤であるため、CMC管理、薬理・毒性試験、ADME試験などについて、従来の開発方法では、極めて多額のコストと長期間の時間が必要である。

そこで、未だに治療法のない進行がんに対する新規複合製剤の開発加速化のために、以下の(1)〜(5)を目標として技術開発を進める(図2図3)。開発体制として、アカデミックサイドは金井(東大薬)を中心とし、スタートアップサイドは抗体医薬品開発の成功経験者である土屋(CompleCure社)が率い、両者がアクセラレレーターとして、各方面の我が国を代表する専門家とスタートアップ企業の連携で、一気に加速化を進める点が特徴である。

(1)デュオカルマイシン:リンカー(アルキン)のGMP製造を見据えた合成方法の確立
(2)Psyche結合デュオカルリンカーのGMP製造を見据えた合成・精製方法の確立
(3)抗HER2-VHHとCupidの融合タンパク質のGMP製造を見据えた培養・精製方法の確立
(4)複合製剤の精製・保存法と、有効性・安全性データの取得
(5)治験に向けた根拠資料の準備と治験プロトコールの作成

図2:実施計画:研究開発項目

図2:実施計画:研究開発項目

図3:開発ロードマップ

図3:開発ロードマップ

本研究は、人工設計により多数開発されつつある抗体ミメティクスと、抗がん剤、分子標的薬、光活性化物質、アイソトープなどの多様なペイロードの複合による、精密医療を目指す進行がんへの治療技術開発であり、大きな一般性、将来性、波及効果を持つ。最初のAMDC製剤としてDuo-HER2の臨床ステージアップを目指す、重要な複合技術開発の第一歩となる。

References

1) Sakata, J.; Tatsumi, T.; Sugiyama, A.; Tanaka, T.; Kanai, M.; Tokuyama, H.; Yamatsugu, K. et al. Protein Expression and Purification, 2023, 214, 106375.

2) Sugiyama, A.; Tanaka, T.; Yamatsugu, K.; Kanai, M.; Kodama, T. et al. Proc. Jpn. Acad., Ser. B. 2019, 99, 602.

3) Tatsumi, T.; Sugiyama, A.; Washiyama, K.; Yamatsugu, K.; Kanai, M. et al. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2024, 108, 129803.

4) Yamatsugu, K.; Kanai, M.; Sugiyama, A. et al. Protein Expression and Purification, 2022, 192, 106043.

5) Kaneko, Y.; Yamatsugu, K.; Tanaka, T.; Sugiyama, A.; Kanai, M.; Katoh, H. et al Cancer Science, 2022, 113, 4350

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