採択課題

組織移行性抗体AccumBodyを使った高機能性DDSによるバイオ創薬

研究開発代表者

伊東 祐二

鹿児島大学

研究開発分担者

香月 康宏

鳥取大学

冨塚 一磨

東京薬科大学

抗体医薬品の隆盛の中、新たな医薬品のモダリティとして核酸医薬品、細胞医薬品が注目されている。これらの医薬品は、抗体医薬品では達成できない、遺伝子(mRNA)のノックダウンやエキソンスキッピング、細胞機能を使った組織再生など、医療への応用が広がっている。しかし、これらの医薬品は、全身投与した場合、標的臓器・部位への低い到達効率のため、治療効果の限界が課題となっており、これらの次世代医薬品開発においては、適切な薬物送達技術DDS 機能が極めて重要であると考えられる。

我々は、前事業であるAMED先端的バイオ事業にて、脳・腸・筋に特異的な抗原に対する抗体を取得し、それらの抗体が、臓器への薬物送達機能(移行・滞留)を有する抗体、即ちAccumBody🄬 として機能することを示した(図1)。本事業の目的は、これらのAccumBody🄬を使ったDDS 機能を有する高機能性核酸医薬品、細胞医薬品開発の基盤技術を確立するとともに、AccumBody🄬 の実装による医薬品開発を推進することである。以下に、開発を目指す脳・筋・腸のAccumBody🄬を使った3つの医薬品の概要について説明する。

図1:開発済みの組織移行性抗体AccumBody 蛍光標識したAccumBody🄬をマウスに静注後、各時間に潅流脳を摘出して、蛍光イメージングに供した。

図1:開発済みの組織移行性抗体AccumBody
蛍光標識したAccumBody🄬をマウスに静注後、各時間に潅流脳を摘出して、蛍光イメージングに供した。

図2:脳移行性抗体(AccumBody-Brain)を改良した高機能化脳送達技術

図2:脳移行性抗体(AccumBody-Brain)を改良した高機能化脳送達技術

1)中枢疾患に対する脳AccumBody🄬を使った抗体核酸複合体開発

Huntington病のような遺伝性の中枢疾患の治療において、核酸医薬品は、極めて有効であると考えられる。Huntington病は、Huntingtin遺伝子(HTT)の中のGlnの繰り返し配列領域が増幅した変異型遺伝子(mHTT)から作り出されるタンパク質が、脳内で凝集することで、神経にストレスを与え、細胞傷害、細胞死を引き起こす。この病態の進行を抑えるため、mHTTに対するアンチセンス核酸(ASO)が開発途中である。しかし、中枢疾患に対する核酸医薬品は一般的に髄腔内投与であるため、患者への負担も大きい。我々は、このような課題を解決した高い治療効果を持つ治療薬の開発のため、図2に示したように、脳AccumBody🄬と核酸医薬品を連結した抗体核酸複合体(Antibody Oligonucleotide Conjugate, AOC)を作製した。これを血中に投与し、脳AccumBodyの機能によって脳移行後、脳抗原との結合によって、脳に滞留することで、長期の治療効果が望める薬剤である。現在、脳への移行や細胞内取り込み効率を上げるための改良を進めている。

2)DMD筋ジストロフィーに対する筋AccumBody🄬を使った抗体核酸複合体開発

図1の右に示した筋AccumBodyの医薬品開発への利用として、DMD筋ジストロフィーの変異ジストロフィンに対するエキソンスキッピング機能を持つモルフォリノ核酸と筋AccumBody🄬を連結した抗体核酸コンジュゲートの開発を進めている(図3)。すでに、Eteplirsen等DMD筋ジストロフィーの治療用核酸医薬品が上市されているが、疾患臓器(筋)への標的能の欠如から、肝毒性や腎障害などの副作用が報告されている。我々のアプローチは、筋AccumBody🄬と核酸医薬品を連結することで、標的臓器である筋への効率的な核酸医薬品のデリバリーが可能となる。

このような核酸医薬品と抗体とを連結する場合、抗体への核酸の連結方法が重要である。ランダムな修飾や、ヒンジ領域Cysに導入する方法では、抗体の本来の機能への大きな影響が懸念される。そこで、我々は、研究協力者である株式会社ペプチド研究所と共同で、IgG抗体のFc上のLys248の側鎖に特異的にアジド基を導入する部位特異的修飾法tCAP法を開発した(図3の左下)。この方法により調製されたアジド化抗体とDBCO化核酸医薬品とを混合することで、クリック反応による容易な抗体核酸コンジュゲートの調製が可能となる(図3右)。

図3:抗体コンジュゲート技術tCAPによる抗体核酸コンジュゲート

図3:抗体コンジュゲート技術tCAPによる抗体核酸コンジュゲート

3)炎症性腸疾患に対する腸AccumBody🄬を使った細胞医薬品(AccumCell🄬)開発

腸AccumBody🄬(図1の中央)の医薬品開発への応用に向け、ヒト臍帯由来の間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells: MSC)と腸AccumBody🄬を組み合わせた炎症性腸疾患(IBD)に対する細胞医薬品の開発を進めている。IBDに対する細胞医薬品としてMSCが日本では認可されているが、その効果は限定的である。一つの理由として、投与したMSCの、疾患標的である腸への効率的な送達が行われていないことが考えられる。そこで、図4に示したように、MSCへの遺伝子導入技術を使って、腸AccumBody🄬を細胞表面に提示させたMSCの創製を目指す。 研究協力者であるヒューマンライフコード社と共同研究を進めながら、最終的には、血中からの投与で、腸へ集積し、機能因子の分泌発現を行いながら、腸への高い抗炎症作用を持つ細胞医薬品の創製を進めていきたい。

図4:腸移行性抗体(腸AccumBody🄬)を使った細胞医薬品AccumCell🄬

図4:腸移行性抗体(腸AccumBody🄬)を使った細胞医薬品AccumCell🄬

共同研究チームのメンバー

共同研究チームのメンバー

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